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 二着のドレスを両手に携え、眼前の男に突きつける。片方は黒を基調としたシックなデザインで、もう片方は白のレースがついた可愛らしいデザイン。アイメリクは交互に目をやれば、最後にわたしを見て柔らかく微笑んだ。

「どちらも似合う」

「……………………」

 社交的な集まりについては彼のほうが明らかに経験がある。それを踏まえての質問のはずが、呆気なく突き返されてしまった。適当にあしらうひとではないだろうし、単に試されているのか、それとも本当にどちらも似合うと思っているのか。

「社会経験が豊富な方にお尋ねするのがいちばんかなあと思って来たのですが」

「それは相手が悪かったな。世間で云う愛というものは、君が思うより盲目だぞ?」

 自覚できているだけ有難くはある。熱視線を上手いこと掻い潜りながらも、わたしは引かない。

「……聞き方を変えよう。どちらを着ているわたしが愛らしいかじゃなく、どちらのほうが場で浮かないか」

「そこまで不安にならなくても、君は魅力的だしセンスもある。何でも着こなせるさ」

「もう!」

 仮にも政界のトップにいる男だ。こちらがそれなりに佇まいを整えてきても、二人きりになるといつも気を緩まされる。彼なりに気を遣うなとでも言っているのだろうか。

 どんなに質問の仕方を変えてもどちらも似合うの一点張りだ。ここまで来るとアイメリクが己のセンスを過信していないのではと思い始めてくる。彼のセンスを傷つけず、かつどちらかが選ばれるような聞き方なんて想像も……。

「じゃあ……脱がせるなら、どっち」

 無理矢理絞り出した言葉にアイメリクも驚いたのか、一瞬きょとんとしたあと、口元に手を当て思考した。白のドレスをわたしの身体に宛てがうと、ゆっくりと目を細める。

「こちらかな」

 彼と目が合った瞬間に自覚する。自分はかなり恥ずかしい質問をしてしまったんじゃないかと。パーティーが終わったら抱いてくださいと言っているようなものだ。顔が熱くなっているのがバレないよう、慎重に距離をとる。

「……どうもありがとう、参考になった」

「力になれて嬉しいよ」

「うん、……お仕事頑張ってね、じゃあ」

 アイメリクはいつもの調子でわたしを扉まで送ると、執務に戻っていった。当のわたしは全くいつもの調子を取り戻せるわけもなく、うるさい心臓を隠すようにドレスを抱えて込んでしまっていた。いっそのこと黒を着ていってしまおうか。しかしそれでは折角聞き出せた意見を台無しにしてしまう。別に彼を嫌な気持ちにさせたいわけではないのだ。

「……ルキアさんにも聞こう」

 

 

 案の定、ルキアさんにも白を推薦された。二人分のプレッシャーがのしかかったドレスは、およそ布とは思えない重さを生んでいる。パーティーなんて初めてではないのに、緊張も相まって人間とは思えない動きをしていたらどうしよう。合流したアルフィノも、わたしの様子が可笑しいことには気づいているようだ。

「怪我人が駆け込んで来たかと思ってしまったよ」

「めかしこんだ女性に対して開口一番それはないよ」

「ああ、失礼。似合っているよ」

「アルフィノはそっちにしたんだ」

「折角だしもう一着もいつかはお披露目したいものだね」

 タタルさんはこの日のためにわたしたちにドレスコード用の衣装を作ってくれていたのだ。それが、二着ずつ。どのような路線にするかタタルさん自身も悩んでいたらしく、二着作ったほうが早いでっす!と自己解決していた。

「お喋りは得意じゃないから、いつも通りご馳走にありついておこうかな」

「かの英雄を周囲が放っておくとは思えないが……」

「それはアルフィノも。熱が入って話し込みすぎないようにね」

 全く警戒しないというわけにはいかないので、念の為フォルタン家の護衛の視界に入るくらいの位置をキープしつつ、アルコールのない飲み物をちまちま口にしていた。

 何人かがわたしの元を訪れることもあったが、珍しい旅の話を聞くと満足して帰っていく者がほとんどだった。わたしの戦いが誰かの刺激になるのならそれは喜ばしく思うが、それがどんな方向にゆくのかはわたしも当人たちも予測できないだろう。口が達者ではないのでたいした助言もできない。強いて言うなら願うことくらいだろう。

 再び一人になったとき、ふと遠くを見ていればアルフィノとアイメリクが話し込んでいるのが目に入る。熱が入りすぎないようにと注意したのにも関わらず、アルフィノは熱心に何かを語っているようだった。パーティーでくらい息抜きして欲しいものだが、アルフィノもなんだかんだでじっとしていられない性分なんだろう。

「…………」

 ばちり。アイメリクと目が合った。今まですっかり忘れていたことが頭に流れるように戻ってきて、顔が緩みかける。なんとか堪えて会釈をすれば、向こうも微笑み返してくれた。

 

 

 人通りが少なくなるたび、このまま取って食われるのではないかと気が気でなかった。邸宅に辿り着けばお付きの者がわたしの羽織っていたコートを預かってくれた。イシュガルドの寒さに当てられたはずなのに、どこかしっとりと汗をかいている気がする。アイメリクがドレスの折れた衿を正そうと首元に手を伸ばせば、分かりやすく身体が強ばった。

 部屋に入ればすぐに両頬を抱え込まれ、唇を塞がれる。角度を変えながら啄むようなキスを繰り返し、ドレスのレース部分を指で弄んでいた。こうしてすぐに事に及ぶのは把握できていたので、何も驚くことではなかった。拒みもせず素直に受け入れてしまっている自分が憎たらしくて仕方がない。

「怪しんでなかったか?」

「なに、を」

「君を宿まで返さなかったことをだ」

 アルフィノと一緒に、そしてわたしは逃げるように宿へ戻ろうとしていたが、それを引き留めたのがアルフィノの信頼する男であったのが運の尽きだ。

「関係が公になると都合が悪くなるから?」

「はは、酷い質問だな」

「……ごめんなさい」

「許してくれよ。あんなに熱烈に誘われたら誰も断れない」

「ご、ごめんってば!」

 躙り寄るアイメリクを拒めずに、流されるままベッドに座らされる。ドレスの質感を楽しむようにおなかや脇腹を手のひらが這ってゆく。布越しでも彼の温度が肌に触れて、声が出そうになる。

「綺麗だ、似合ってる」

「きみのセンスが良かったのかもね」

 手のひらはそのままドレスの裾を潜る。見えないところで太ももの内側をするりと撫でられると思わず息が漏れてしまう。

「っ、……ん」

「脱がされたいんだったな」

「そうは、言ってない……っ」

「ほら、後ろを向いて」

 ぐるりと彼に背を向ければ、きつく締められたジッパーを下げる音がする。腰まで下げられたところで、素肌の見えるようになった背中に何度もキスが落とされた。するすると緩まった布を引き抜くとわたしは下着だけになり、それすらも脱がされればこれでいつでも抱けますよと言わんばかりの格好になってしまう。苦し紛れにアイメリクのネクタイに手をかければ、解かれたそれははらはらとシーツの上に落ちていった。見慣れない彼のスーツに手を掛けながら、わたしと同じようにドキドキしてくれていたんだろうかと少し期待してしまっていた。

 お互いを脱がし終えれば、優しく抱きしめられながらベッドへ沈んでゆく。肌のあたたかさが直に触れるのが心地よくて、切なくて。

「……アイメリク。なんで白にしたか、聞いてもいい?」

 彼の背中は分厚くて、腕を回すのもやっとだ。わたしより少し高い体温がそこにあって、とくとくと鼓動を走らせていた。

「この白が君の肌に溶け込んでいくのが、なんだか憎らしく思えてな。そうなる前に、剥ぎ取って仕舞おうと思った」

「ドレスに嫉妬したの?」

「私以外に聞きに行った君にも少し、な」

 直属の部下だと話が行くのが早い。早すぎる……。相手は女性なのだから嫉妬も何も感じなくていいだろう、と問おうと考えたものの自分もアイメリクが男の友人とばかりつるんでいたら同じようになっているのかもしれない。

「ルキアにも聞いたのか? 脱がせてほしいと」

「きみにすらそんな言い方してない……」

「それともこうかな、アイメリク卿が脱がせたいと思うのは……」

「っ、帰るよ!」

 少しだけ声を荒げれば、何故かアイメリクは満足そうに笑う。きっとわたしの表情の変化を楽しんでいるに違いない。そんな幸せそうな顔を見ればなんとなく強く当たれなくなってしまう。

「では改めて尋ねるとしよう。君は誰に脱がされたい? 誰に触れられたい?」

 引っぱたいてやろうかとも思った。しかしその思考はいつの間にか闇色のカーテンに覆われていた。肌と比べれば冷たい温度が、額や頬にさらさらと伝わる。逃げられない。

「……アイメリク」

 ぽつりと、下手したら聞こえない声で呟いた。こんな至近距離で聞こえないはずないのに。気がついたら彼の舌が唇を割って入ってきて、わざと音を立てるようにわたしの舌の上で、歯の裏で、心地よく踊った。くちゅくちゅと頭に痛いほど響いてきてくらくらする。錯覚なのか酸欠なのかも曖昧になってきた頃にようやく解放され、名残惜しそうに軽いリップ音だけを残す。

 胸元に垂れた唾液を追うように唇が触れる。ちゅ、ちゅ、と跡を残していきながらわたしへの目配せも忘れない。どちらの唾液が絡みついているのかも分からない舌が、今度は固くなった頂へと這う。

「ぅあ、……ぁ、んんっ……」

 もう片方は爪でかりかりと弄ばれ、腰が無意識に浮かぶ。目線を下にやれば、大の男が必死になってわたしに縋っているようで、なんだか愛しく思えた。

「見てご覧」

「え……っ、わ、嘘」

 わたしが腰を落としていた部分はすっかり色を変えており、何時間も前からここにいたかのようだった。あまりのみっともなさに顔が熱くなる。

「濡れていたのは先程からではないな。もしかするとパーティーの最中から……」

「そ、そこまでふしだらな女じゃない!」

「私に抱かれると期待して過ごしていたんじゃないか? それなら合点がいく」

「あっ、……ん、ちょっと、っぅ、あ」

 嘘みたいに濡れているせいで、指は何の痛みもなく侵入してくる。聞くに耐えない音に顔を背けるも、水音も快感も増す一方だ。

「私と目が合ったときの君、どんな顔をしていたかわかるか?」

「っひ、あっ、あ、……っなに、顔、て」

「他の男に向けたら勘違いされてしまうぞ」

 やっぱりあのとき、顔の緩みを隠せていなかったのだろうか。ただでさえ察しのいい男だ、彼に思っていることを隠すというのは難しい。同時に、何もかもに妬いているアイメリクが子どものようで愛おしく思えた。大人げもなく抱えたむしゃくしゃをどこにぶつければいいのか分からずにいる。彼は優しいから、鬱憤をわたしにぶつけるなんてことも到底考えないだろう。

「じゃあ……アイメリクもそういう顔あんまり見せないでね」

「……情けない顔でもしていただろうか」

 自身の発言の幼稚さに気づいたのか、咄嗟に彼は片手で口元を覆う。

「英雄殿を取られたくないー、って可愛い顔」

「忘れてくれ……」

 力づくでは握られていた主導権を奪うことが出来ない。力の差によって敵わない交渉で役に立つのは、いつだって頭脳戦だ。

 口元を覆う手の甲越しにキスをする。逃げられないように関節に沿って舌を這わせば、無理に退けられないアイメリクの片手はあっという間に封じられた。

 古傷の多い指を甘噛みしながら、利き手で彼の太ももをゆっくりと撫でる。完全に流れを持っていかれたことを察したアイメリクは、されるがままにわたしに身を委ね始めた。恐る恐る臨戦態勢のそれを柔く握り、上下に動かす。自分から触ったこともなければこうして気持ちよくさせたいと行動することもなかった。視線をアイメリクの顔へと戻せば、もどかしさに耐えるようにわたしを見つめていた。はやくわたしを抱きたい、と目がぎらぎらと語っている。獣のような瞳に思わず腰が跳ねそうになった。それでも無理矢理組み付いたりしないのは、まだ理性が残っているからなのだろう。彼の優しさに甘えて、次第にわたしの悪戯心はむくむくと膨張していく。

 噛んでいた指先を今度は口に含む。じゅ、と一度吸い付いたあと飴を舐めるように舌を動かした。アイメリクは片手をついてわたしを押し潰さないようにすることで精一杯だった。それをいいことに、彼のものを擦りながら自分の空いた手を自分自身に這わす。

「っん、あ……、あ、っぁ」

 かたくなった陰核をぐりぐりと押し込むだけで達しそうになる。なんとか気を保ちながらも、もう片方の手も必死に動かす。気持ちいいかな、もう少し強めでもいいのかな。

 ふと、口に含んでいた指がぴくりと動き始めた。わたしの舌を引っこ抜きでもするかのように少しだけ乱暴に掴んで、そのまま顔が近づく。

「いっ……!んぅ、……っぁ、ふ……」

「ん、っは……」

 唇を重ねながら、動きの止まったわたしに完全に覆い被さる。うすく目を開けてみると、目を瞑って夢中でわたしを頬張る彼の姿があった。溶けたようにわたしに縋るアイメリクは、はやく一緒になりたいと懇願しているようで、つられてわたしまで頭がくらくらしてくる。

「……はは。こうも揶揄いあっていては際限がないな」

「負けず嫌いなんだよ、お互い」

「ここからは真っ直ぐに君を愛しても?」

 もうとっくに伝わってますよ、なんてのは癪に障るだろうから心の中に仕舞っておく。返事の代わりに彼の背中にしがみつけば、ゆっくりと硬度を増したものが侵入してくる。身体の内側が全部溶けてしまいそうなくらいに熱い。それはきっと相手側も同じだ。

「〜〜〜っ、あ……」

 止まっていたはずのものは一度引き抜かれると、再び中に戻ってくる。とん、と奥を貫かれる感覚が一回、二回。数えていくうちに頭が働かなくなって、気づけば無意味な声ばかりが溢れ出していた。

「あっ、あっ、あ……!っひ、ぅ、……んん〜〜〜っっ!は……、ん、ああっ……!」

「っ、く……、さては君、先程達しかけていたな……? 締ま、っ……!」

「ぅ……!っは、はぁ、っ……あ、だめ、イっ、ん……!っあ、あ……っっ!!」

 快感の逃し方が分からず、力強くアイメリクの背にしがみつく。達している最中は気持ちいいことと中の感覚しか頭に入らなくなり、箍が外れたように声が漏れた。

 中の圧でわたしが達しているのなんて分かりきっているだろうに、それでも目の前の男は追い討ちをかけるように腰を止めない。先程意地悪をしすぎた“つけ”が回ってきたのだろうか。

「っは、中までしがみついてきて、っ本当に君は……」

「んぅ……!」

 こつん、と深くまで当たる感覚がした。アイメリクの長いそれは子宮口まで易々と辿り着いており、お世辞にも綺麗とは言えない音を立てながら叩くのを繰り返している。───同時に、本能が知覚する。孕ませられる、と。

「ぁ、あっ!っおく、おくまできてる……っ!」

「ああ……、っ気持ちいいよ。痛いか?」

「きもちいい、っ……すき、すき……」

「っ……、さては頭が回っていないな……後悔しないでくれよ?」

 びくり、と中で何かが震える。ここからだと聞こえないのに、まるで音を立てているかのようにゆっくりと注がれていく。先程の質量と比べれば明らかに物足りない感覚のはずが、快感が込み上げてきてしまう。……それにしても量が多い。わたしの腰を掴んだままアイメリクは射精に集中している。一滴たりとも零すものかと言わんばかりに、入口を強く塞ぎきっていた。

「……な、ながい」

「しばらく自慰をできていなかったんだ、許してくれ」

「わたしはいつもしてるみたいな言い方……っん……」

「していただろう。ご丁寧に目の前で」

 中で世話をしていたものが引き抜かれると、少しだけ声が漏れた。それを追うように粘性を帯びた液体が這いずり出てくる。そこまではまだよかった。問題はアイメリクのそれが入れる前とほとんど硬度が変わっていなかったことだ。凶器と呼んでも過言ではないそれにどちらのとも判別がつかない液体が纏わりついていて、さながら化け物のようである。

「わ」

 ぐるり、と視界が回転する。気がつけばうつ伏せにひっくり返されており、冷たいシーツが頬に触れた。次の衝撃に耐えようと強く目を瞑っていれば、わたしの太ももに挟んでゆるゆると抜きはじめる。びりびりと余韻の残る入口に触れるたびに中がむず痒く感じた。

「ひ、ぁ……っ、あ……」

「っ壮観だ、な。……君ので、っ……押し出されてくるぞ」

 自分の液体ではないものが溢れてくる感覚が確かにあった。その一連の動きですら腟内を刺激してしまい、びくりと腰が震える。少し気をやれば達してしまいそうなほどだ。あとちょっとでイけるのに、と物足りなさが頭を蕩けさせてくる。アイメリクも早く入れてしまえば気持ちよくなれるのに、この期に及んでまだ焦らしをかけている。どちらが先に根を上げるか互いに見計らっているようで腹立たしい。

「……いや、意地悪はよくないか。また君が拗ねてひとりだけ気持ちよくなろうとしてしまう」

「人の脚使って抜いてるのはどこのどいつなんだか……」

 アイメリクがわたしにぴったりと覆い被さると、心臓の音が背中に伝わる。その振動にすらどきどきして、目眩すら覚える。

「ぁ、……っぁ、まって、ぁ、っあ、〜〜〜っ!」

 既にぐずぐずになった入口から、なんの突っかかりもなく奥まで貫く。痛みにも似た快感が脳まで一瞬で走り、身体が強ばる。イって、る、と口を動かすも、言葉ははくはくと空気中に溶けていくだけだった。

「君はっ、……ん、いつも、入れた途端に達するのをなんとかしなさい、っは、こちらまで……、っ」

「あっ、ああ、ぅ、むり、とまって、とまっ……ん、ああ!や……っ!」

 顔が見えないのをいいことに、あられもない声が筒抜けになってしまう。好都合だと思っているのはアイメリクもなのか、わたしのうなじに鼻をくっつけて息を吸ったり、時折分厚い舌が身体を味わうように堪能していた。

「っああ、ん!あ、あ……!っん……!は、っなんで、ひ……っ!ずっと、いってる……っ」

「もう、ここだけでは……っ、満足できなく、なったり、してな」

「〜〜〜っ!!あ、や、いく、っい、やだぁ、っやだぁ……!」

 クリトリスを乱暴に押し込まれて、再び頭が真っ白になる。その頃にはシーツを握りこむ力もなくなり、ぱたりと緩んだ自分の手のひらが視界に入る。その上にひと回り大きな手が重なれば、顔の横で、彼の吐息が頭まで響く。

「……は、っ……!く、」

「っは……、ぁ、あ……!」

 どくどくと中のものが震えたかと思えば、先程よりは勢いのない精液が注ぎ込まれる。いよいよアイメリクも余裕がなくなっていたのか、ふーっ、ふーっと荒い息を吐きながらわたしに腰をぐりぐりと押し込んでいた。このときばかりは彼がどんな情けない顔をしているのか興味があったが、今のわたしにはひっくり返る余裕も体力も残っていなかった。

 達したあとの倦怠感も相まってか、次第に自分の行動に後悔し始めてくる。彼の困った顔が見たくてやったことが全部自分に返ってきて、終いには頭を溶かされてしまったのだ。

「……いつから? この量ぜんぶわたしに注ぎ込むの、どうかしてる……」

「君がドレスを持ってきた日から、と言ったら怒るか?」

 一体どこまでその頭は回るんだ。この男の立場からして、ひとりの女のことなんて二の次以降でも可笑しくないだろうに。

 居心地の悪いびしょ濡れのシーツから、そして男の戯言から逃げるようにベッドの端に転がる。案の定追いかけられてきて、さっきまでの激しさが嘘のように感じるほどやさしく抱き締められる。羽目を外していたぶん、余計にそのやさしさが小恥ずかしい。

「忘れよう、アイメリク」

「忘れた“ふり”でよければな。どこからどこまでを?」

 なんて意地悪な答え方だ。いや、そもそも最初にたちの悪い聞き方をしたのはわたしからだ。ひとのことをとやかく言える筋合いは無いが、何せこれだけ夜を過ごしている。少なからず、どちらかがどちらかに似てしまったのだろう。

「…………ドレスを選んでもらうところから」

 アイメリクは笑いながらも了承した。役目を終えたわたしの唇が閉じたのを確認すれば、そっとキスを落とされて再び抱き締められる。未だ熱の残る彼の肌が、わたしの肌へと溶け込むように沈んで行った。

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