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もう暖かくなってきたというのに、出迎えてくれたのは廊下の冷たさだった。深夜で物音ひとつしない静寂のせいか、その冷たさが痛いほど煩く思えてしまいアスランは身震いをした。
日付が変わって一時間ほど経過していたが、リビングの明かりだけはつけっぱなしにされていた。自分が帰ってきたときのためにリビングだけつけてくれていたその優しさが、冷えた身体をほんのり温める。
そういえば最近、一緒に夕食を食べることができていないなあ、と思い出す。アスランの長期に渡る収録が終わったと思いきや、今度は神谷の仕事が忙しくなり始める。朝食は一緒に食べているものの、ゆっくりお喋りする時間を取ることは難しくなってしまった。

シャワーを浴びて追い焚きした風呂に軽く浸かったあと、神谷が起きないようにそっとベッドの隣に潜り込む。神谷の体温は比較的高いほうなので、風呂上がりのアスランと同じくらい温かかった。それがなんだか心地よくて、気分を良くしたアスランは珍しく、神谷におやすみのキスをした。神谷の呼吸は深かったし、きっとしっかり眠っているだろうと考えての行動だった。
「おかえり」
大きな手のひらが背中にまわされて、今度は神谷からキスをされた。起こしてしまったのか聞いたが、どうだろうねと軽く躱されてしまった。
神谷の手のひらがアスランの頬を撫でる。アスランは神谷の手のひらが好きだった。自分より少しだけ大きくて、頬を簡単に包み込んでしまう手、家に帰ってきたんだなあという安心感を与えてくれる神谷の手。だから、疲れた身体に神谷の手のひらは危険すぎる。風呂に浸かったことで温まっていた身体に、ダイレクトに睡魔となって襲っていく。
「眠いかい?」
「……そんなことは」
「今にも寝てしまいそうだね」
カミヤが寝させないようにすればいいだろう、とでも言いたかったが自分らしくもないので仕方なくアスランは口を噤んだ。代わりにもう一度キスをした。軽く口を開いてみると、厚く湿った舌が入り込んでくる。今の神谷はどこもかしこも温かくて、熱い。神谷の熱に溺れつつも、頭が沸騰してしまわないようにアスランは彼の袖を強く掴んだ。しかし時折色っぽい吐息が聞こえてきて、どう足掻いても頭がおかしくなる。
暑くなったからか、神谷は掛け布団を放り投げるとアスランに馬乗りになり、自分のパジャマを脱ぎ始めた。それを見るのが少し恥ずかしくて、目を逸らしながらアスランもパジャマのボタンをぎこちなくも外した。
「あ。俺が脱がせたかったんだけどなあ」
「ど、どちらがやっても、そんなに変わらぬぞ……」
「本当に?」
神谷はアスランの両腕を引っ張ると、自分の太ももの付け根にその手のひらを置いた。ぬがせて、と口をぱくぱくさせるとにやりと笑った。しぶしぶゴムの緩みかけたズボンをおろすと、ゆるく勃ち上がったものが下着を押し上げていた。キスしただけでこんなになるなんて若いなあとアスランは思ったが、自分も下着の不快感に気づいてしまい何とも言えなくなってしまった。
「変わらなくないだろう?」
「……か、変わらない、ぞ」
神谷の指がアスランのパジャマのボタンにかかった。次第に素肌が曝されていく様子を見て、自分の身体なのになぜか恥ずかしくなってしまった。布の擦れる音さえもなんだかいやらしく聞こえてしまって、目も耳も塞ぎたいくらいだ。
神谷の前髪が真上でゆらゆら揺れる。まるで飼い主に構ってほしい大型犬だ。
「身体、火照っているね」
悔しくて何か言い返したかったが、神谷の整った顔がまた目の前に来て、キスをされて、何も考えられなくなる。
早く触ってほしいのに上手く言葉にできなくて、とりあえず神谷の手の甲をするりと撫でると、予想通り神谷の身体は少しだけ反応する。……これは最近知ることができたのだが、カミヤは手の甲が弱いのだ。こうして指先で擽ってやると、決まってもどかしそうに身じろぎをする。
「……っ、あんまりいやらしい触り方、しないで……」
「カミヤはもっといやらしい触り方をしてくるだろう……」
神谷はアスランの指先から逃げるように、彼の下着へと手を動かした。夜の冷気が熱くなった芯に触れることで、ようやくアスランは自分が興奮していることを自覚し始める。その上、神谷の視線が露骨に自分の陰茎へと注がれているのを見て、恥ずかしさからますます身体が熱くなったような気がした。脱がされてキスをされただけなのに先端は先走りで湿っていて、神谷はかわいい身体をしているなあ、と思いながら親指で先走りを擦り付けた。
「ぁ……!っふ……んんっ……!」
「声、我慢しなくていいよ」
神谷の指が焦らすように上から下へと竿を伝っていく。面白いくらいに跳ね上がるアスランの肩が可愛く思えて、跡が付かない程度にかぷりと噛み付いた。本当は口でも気持ちよくさせてじっくり愛してあげたかった神谷だったが、明日もアスランの収録が入っていることを思い出すと名残惜しくも開きかけた口をすぐに閉じてしまった。このときばかりはちゃんと我慢できた自分を褒めてあげたい、と神谷は思った。
ベッドサイドの引き出しから使いかけのローションを取り出して、まだ使えるかを確認してみる。本当に久しぶりだなあ。そういえばアスランは俺達がセックスしていないあいだ、どのくらい自慰をしていたんだろう。
「今日も仕事があるから、じっくり可愛がってあげられなくてごめんね」
「仕方あるまい……我の使命が一段落すれば、互いの休息日が重なる日も見られるだろう」
「ふふ、そうだね。そのときは一日中セックスしようね」
「い、いちにちじゅう……」
足腰が立たなくなる様子を想像して一気にアスランは青ざめた。一方の神谷は、顔を赤くしたり青くしたりするアスランを見てすっかり楽しんでいた。
ぶちゅりと色気のない音とともにローションを出すと、手のひらを擦って温める。その間アスランは暇を持て余したのか、下着越しに神谷の陰茎の形を指でなぞっていた。下着の中で反応したのを確認すると、アスランは得意気な顔で神谷を見上げた。余裕を失くしかけたのを紛らわすために、神谷は入り口にローションを塗りたくると一気に指を挿入した。
「ひっ!!あ、あ……!ゆび、入っ、ひッ…!う、ぁん!あっ…!」
「奥とんとんってされるの、好きだろう?解れたらあとでもっと突いてあげるからね」
「あっ、あっ、っう……!なか、カミヤのゆびで、いっぱい、あっ!っや、ああッ……!!」
「うん、俺の指、ふやけちゃいそうだ……」
神谷はアスランの声のせいで自分の心臓の音が聞こえていないことにひどく感謝した。こんなにも興奮していることがバレてしまうのはちょっと恥ずかしい。かわいい恋人の前では、常に余裕でいたいものだからね。
ローションと熱でとろとろになった指を引き抜くと、アスランの手にコンドームを握らせた。着けてくれるかな、といつもと同じようにお願いをするとアスランは切らした息を整え、まだ残る快感に手を震わせながらも神谷の陰茎にコンドームを沿わせた。着け終わったあとアスランが先端に軽くキスをしてくるものだから、思わず手加減を忘れそうになってしまう。あぶないあぶない。
アスランの膝を持ち上げると、かたい身体の関節が音を立てて鳴ってしまい思わず笑みが零れた。これでもストレッチは毎日しているのだぞ!なんて言い訳が下から聞こえてきて、どうしようもなく愛しくなってくる。
「っあ……」
「んっ、は……なか、熱いね」
「はあっ……う、入った、か……?」
「全部入ったよ。ほら」
互いが密着しているのを目にするのは恥ずかしかったが、ローションで湿った下生えが擽ったくて、アスランの緊張はすぐに解れていった。しかしそうしているうちに神谷の陰茎が軽く引き抜かれ、アスランの最奥目掛けて再び腰を打ち付けた。
「あっ、あ、っあ…!待って、ぁっ、うう…!っあ、だめ、カミヤ、カミヤあ……ッ!!」
指では比べ物にならない質量が弱いところを殴るかのように襲ってきて、悲鳴ともいえる声がアスランの喉から溢れていく。
「ひぁぁっ…!あ、あっ、あっ…だめ、それ、きもち…ッ、っひ、ああッ…!うう……ッ、あ……!あっ、ああ……!!」
「っん、…そうだね、きもちいいね、アスラン……っ!」
「ん゛ッ!!あ、っああ……あッッ……!!!はやい、はやいからあ……!カミヤっ、っんう……!!」
「はあっ……ごめんね、もっとゆっくり、してあげるね……」
神谷はアスランの腰を掴みなおすと、最奥に陰茎を強く押し付けた。そのままぐりぐりと腰を動かすと、限界が近いのを感じたアスランは首を横に振りながらどうにか神谷の身体を押し返そうとする。
「カミヤっ、やだ…!っん、それ…っ、へんに、なる…ッ!」
「っう…はあ……、うん…一回イっておこうか、」
「あっ、あ゛ッッ…!だめ、とめて、…っひ、あ…ッッ!!あっ!やっ…!きちゃう…!!カミヤっ、待って…ッ!!あ、だめ…!いく、い゛っ……〜〜〜ッッッ!!」
行き場のない快感をどこかにぶつけたくて、なんとか神谷の背中へ腕を伸ばす。抱き寄せて神谷の肩に額をぶつけると、神谷の汗のにおいがした。レッスンのときにいくらでも嗅いだことがあるのに、奥をこんなにぐちゃぐちゃにされながら嗅ぐにおいとはわけが違う。無意識にきゅうと中を締めてしまうと、上から可愛げもない呻き声が聞こえた。
「こら、笑わないの……」
「ひ…!あ、やっ…!まって、や、休ませて……」
「もうちょっと付き合って、ね……っ!」
達したことで締まりが良くなった中が神谷の吐精を促していく。快楽に溺れたままのアスランを見て、このまま帰ってこなかったらどうしよう、と神谷はゆらゆらとした意識の中で考えていた。
「アスラン、こっち見て、」
「あっ!あ…!!っ、ふ……、っんん……!」
アスランの意識をこちらに向けようと、涎でべとべとになったアスランの唇に吸い付く。舌を啜る音が追い打ちをかけているのか、再びアスランに絶頂の波が押し寄せて来ていた。
「はあっ…!はっ、あ…、っあ、あ゛ッ!ひ…、ん゛ッッ!!あっ…!また、来るっ、!」
「ん…、っアスラン、なかで一緒に、っあ、…っ!気持ちよく、なろう、ね…!」
「あ゛ッッ……!!!ひ、っう゛…!!あ、あっ!ああっっ!!だめ、いっちゃう、いっちゃう…っ!カミヤ、っあ…!!すきっ、すきっ……!!!!!」


現場への集合時刻は九時であったが、二人仲良くアラームもセットせずに寝落ちしたせいで、アスランが目を覚ましたときには八時であった。今回の現場は二駅先でそう遠くなかったのが幸いだった。しかし神谷と朝食をゆっくり食べる時間が取れなかったことに、アスランは少しがっかりしていた。
身支度と朝食を終えたあと、神谷に行ってきますのキスをするため寝室へ戻った。寝る前は汗で張り付いていた髪の毛が、今はさらさらとシーツに広がっている。美しいな、と声に出せば自然と神谷の額に口付けていた。
「愛している」
そう言って神谷の寝顔に微笑むと、乱れた掛け布団を整えて寝室を後にした。しばらくすると遠くから玄関が閉まる音が聞こえて、神谷は即座に綺麗に整えられた掛け布団を退かして起き上がった。
「ず、ずるい……!!」
思わず顔を覆い、頬が熱くなっているのを誤魔化した。情事中以外でアスランが面と向かって好きだとか愛してるだとかを伝えてくることは滅多にない。すっかり油断していた。狸寝入りをしていたつもりではなかったが、曖昧だった意識の中にそんな愛の言葉を放たれたものだから、眠気なんて一瞬で吹っ飛んでしまったじゃないか。恐る恐る自分の下半身を見てみると、ゆるく勃ち上がってしまっていた。だってあんな声で囁かれたら、そりゃ。今だけは誰かのせいにしたとしても許されるだろう。
今日もアスランは疲れて帰ってくるのだろうか。昨夜抱いたばかりなのに、もう神谷の身体はアスランを抱きたいと叫び始めており、どうしようもなくなってしまっていた。

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