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案外、絶え間なく会話は続いた。アイメリクがわたしを友人として扱ってくれているのか、歳下を可愛がっているのかは定かではない。しかしそれが好意であることは誰が見ても理解できるだろう。こうも素直に愛情を向けてもらえるのは光栄だ。

 彼との食事はこれで二度目だった。宿の食事と違い、ひとつひとつが異なった食感や味をしている。連日同じようなものばかり口にしていたわたしには、些か刺激が強く思えた。

「……英雄殿は表情が顔に出ないと思っていたが」

「?」

「食事は別だな。とても美味しそうに食べるじゃないか」

「もちろん。たまには自分の舌も甘やかしたいし、それと……みんなへの土産話、いや自慢話にできちゃうから」

 あなたとの食事にはたくさんの幸せが詰まってるんです、と口にすれば、彼は一瞬目を丸くしたあと柔らかく微笑んだ。

「……口が過ぎちゃったかな」

「はは。特別扱いされているみたいで嬉しくてな」

「友人だって言ったじゃない」

「そう。友人だ。互いを激励し、慰め合える関係の」

 椅子を後ろに引いた音が聞こえた。しかしアイメリクは立ち上がらず、座ったまま自身の太ももをとんとんと叩いた。わたしに見えるようにだ。リップが落ちない程度に口を拭えば、席を立って近づいていく。

 肩に手を置けば、するりと腕の中に吸い込まれる。鎧の纏わない身体が密着し、布越しであれどその新鮮さに脈が早くなった気がした。

「君は抱え込みすぎるきらいがある。率いる身のひとりとして、誰かに甘えるのもやっとだろう」

「折角のお食事会に悪口ですか」

「無論、君を悪く言うつもりはない。心配なだけだ」

 善意なのやら私利私欲なのやら。それはあなただってそうじゃないか。言葉で言い返せない代わりに、彼の髪をくしゃりと掻き上げる。そのまま腕を背中に回されると、鼻がくっつきそうなくらいに顔が近づいた。

「甘えたいのはそっちでしょ」

「随分な言い様だ。私に気を許してくれたのか、それとも誰かの入れ知恵か」

 こめかみに唇が触れる。長い睫毛が肌に当たって、彼の温度に身体ごと包まれていく。酒も飲んでいないのに顔が熱くなっているのは、きっと正面から見れば一目瞭然だろう。

「そうだな、甘えたい。君は?」

「わたし?」

「了承を得られないと、易々と抱けない」

「だっ、……だ、抱く気だったの」

 言っていることは意地悪なのに、アイメリクの視線は優しい。空いた手を彼の左耳に伸ばすと、ゆっくりと耳飾りを外した。

「……いい子だ」

 水気を含んだ肌は、シーツに触れればぴりぴりと痛んだ。傷が治りきっていないのか、はたまた緊張で感覚が可笑しくなっているのか。大きな体が覆い被さると、今度は大きな舌が口内に割り込み、バーチシロップの甘さが広がる。圧迫感に気持ち悪ささえ覚えるが、奥までは入ってこずに音を立てながらわたしの舌と遊んでいる。お昼寝から目が覚めたときのような、ぼーっとする感覚。けどおなかの奥がじんと熱くなって恥ずかしくなる。

「……ん」

「そうそう、舌はこっちだ」

 口のなかを支配され続けながら、頭を支えていた手はするすると下りていく。大きな手で体積のない胸をふよふよと弄んでいたかと思えば、親指と人差し指でぐりぐりと転がす。電流でも走ったのかと思うほどの衝撃に、声が抑えられなかった。

「気持ちが良さそうだ、ここは一人でも触るのか」

「あ、あ……っ、アイメリク……」

 あまり恥ずかしいことを言わないでほしい、と制止しようとしたが彼の整った顔と目が合い、もうどうでもよくなってしまった。

「腰、揺れているね」

「勝手に動いちゃうんだってば……」

「勝手に、なんてやめなさい。今は私の所為にしてもいい時間だ」

 それを言ってしまえば悦ばせて逆効果になるだけだ。わたしはよく知っている。知った気でいる。本当は彼が奥底で何を考えているのかなんて検討もつかないのに。

「意志の強さは君を強くするために必要なものだ。否定する気はない」

「その言葉、今じゃないときに聞きたかった」

「甘やかしているつもりだったんだが、お気に召さなかったかな。リクエストがあるなら応えよう」

 特別、情事中に甘い言葉を囁かれたいというわけではない。ただ今は、今だけは一介の英雄ではなく女としてのわたしのことだけを見てほしい一心だった。

「当ててみてくださいよ。友人の思ってることくらい、手に取るように分かるでしょ」

「さあ?」

「…………」

「冗談だ。そんな顔しないでくれ」

 損ねてしまった機嫌を取るように、胸元にキスが落とされる。果たして自分はこれほどにまで我儘だっただろうか。いつも他人へ無意識にこれを見せてはいないだろうか。次から次へと不安が過る。

 手のひらは太ももへと這う。溢れた愛液をわざとらしく掬い、その粘性を楽しんでいるようだった。女なんて散々抱いてきただろうにと拗ねもしたが、何せ仕事熱心な男だ。身分上余計な不祥事は避けてきたのかもしれない。

「随分と上の空だ」

「っひ、あ! ぁっ……、っ」

 一本の指が、濡れそぼった腟内へと侵入する。中の温度を確かめるように一通りぐにぐにと動けば、様子見だったのか今度はもう一本も割り込んできた。

「……っ、は、っんぅ」

「痛ければ言いなさい。我慢したらこちらにも舌を入れるよ」

「い、痛い!痛いです!」

「そんなに嫌なのか」

 痛みを報告すれば、無理に押し広げようとはせずゆっくりと動き始める。上側のざらざらとした部分を探り当てると、撫でるように指が踊った。

「あ、っあ、……ひっ!、ぅ……」

「ここは?」

「き、きもちいい……っ」

「良かった。どこが気持ちいいか覚えて帰るといい」

 恥ずかしいことを惜しげも無く言うこの男にも、いい加減慣れたいものだ。自分の指では到底届かない場所にまで、アイメリクの指が伝う。その刺激が頭に届いてやっと、彼に支配されているのだと自覚する。

「その、あんまり言わないで……」

「君のプライベートな話になってしまったか。すまない」

 ちっとも申し訳なさそうになんかしていない顔が、瞼にキスを落とす。いいかな、と至近距離で囁いてくるものだから断りきれずに頷いてしまった。こんなの服従だ。甘やかすなんて言っといて、結局はわたしの躾を楽しんでいる。

 勃起したそれはわたしの内臓をぶち破りでもするのかというほどの大きさだった。毎回見るのが小恥ずかしくて、というより見てもいいのか分からずに目を逸らしていたら、両頬を掴まれて視線を向けさせられる。

「しっかり見なさい。得体の知れない物が挿入されている、なんて思われるのは御免だからな」

「見たところで得体は知れないんですけど……っ、ひゃぁ!」

 向かい合うように身体を起こされる。わたしの手を掴んで陰茎に添えると、耳元に唇を寄せた。

「触ってご覧。直接勉強する機会もないだろう」

「さ、触るって」

「世話をしろとは言わないさ」

 わたしの手を掴んだまま、指先で根元からなぞっていけばぴくりと震えた。

「……ぅ、すごい、びくびくしてる」

「次はここ。君の中に入れて、ここさえ入ればあとはすんなり奥に入る」

 指は上へと登っていき、出っ張った箇所に触れる。先端からは涎のように液体が零れているのが目に入り、ごくりと固唾を飲んだ。

「これは愛液みたいなものかな。君と同じように、興奮したら出る」

「精液とは違うの」

「精液は強い刺激がないと出ないが、こちらは簡単に分泌されてしまう。膣外射精に不妊の見込みがないのもそのためだ」

 勃起をした全裸の男が、大真面目に性器の解説をしている。これは間違いなく自分だけが知っている姿なんだろうなと思うと、口角が上がりかけた。

 満足したのか、わたしをシーツに横たわらせるとおなかに擦り付ける。先走りが肌を掠めて、ぞくぞくと奥が疼いた。入口をこじ開けるように、ゆっくりと挿入される。感覚を下に集中させないように、思い切りシーツを握り込んだ。

「……怖いな、すまない」

 大きな手が自分の手と重なり、そのままぎゅうと繋がれる。そうだ、このひとはばかみたいに視野が広いんだった。国のことも部下のことも民のことも、わたしのことだって常に目を配っている。

「謝るくらいなら抱かないでよ……」

「……それもそうか。しかし礼を言うのも理に合わない気がしてな」

 完全に入っていないからか、寂しくて仕方がなくなってしまう。言葉だけでも繋がないと、壊れてしまいそうで、なんだか怖かった。

「愛している」

「……っ!ぅ、あっ……!待っ、ひぁ、あっ、あ……!!」

 言葉を理解しようとした瞬間、引っかかっていた箇所から一気に押し込まれる。圧迫感が腟内いっぱいに広がるが、大きさからして恐らく全部は収まっていない。子宮口にすら届いていないのに、おなかが痙攣を起こしかけていた。

「っ、……は、痛い、か?」

「ひぁ、っあ、わかんな、っぅ、あ、……っ!あ、」

「分からないか、っん……、これから知っていけばいい」

 気持ちいい、気持ちいい。頭ではそればかり巡っているが、無我夢中でわたしにしがみつく男の顔が目に入れば愛おしさで可笑しくなりそうだった。

「はぁっ、ぁん……っ逃げない、から……」

「ん、っ……そうだな、ゆっくり味わおう」

 喉元にぱくりと噛み付かれたかと思えば、ゆっくりと舌が顎を伝う。そのまま唇ごと食べられると、あとはされるがままだ。わたしの舌は性感帯だったのだろうか、と錯覚するほど気持ちがいいのは彼の技量からか、それとも彼の存在からか。

 大きな手が腰を掴み直し、最奥を穿つ。骨盤が揺れている感覚がする。その頃にはもうどこが気持ちよくてどこが痛いのかさえ麻痺してしまっていた。

「っ……、はぁ、っう……あ、あ……」

「──、顔を見せなさい」

「ぁ、う……やだ……」

「君の達している顔が見たい」

 素直なのが逆に恨めしい。大人しく彼と目を合わせば、視線にまで犯されているようで電流が走った。

「や、っあ……!だめ、あ、っうぁ……!ぁ、イ、っ……!」

「っいいよ、……そう、楽にするんだ……」

「あいめ、ぅ、っ……ん、あ、っあ……!」

 思わず爪先に力が入る。達している最中は絶えず気持ちよさが続いていて、金縛りのように身体のどの部位も動かすことが出来なかった。アイメリクはわたしが落ち着くまで動かないようにしていたが、ひょっとすると中の圧を堪能していたのかもしれない。

「は、っあ……足、つるかとおもった……」

「はは、少し力みすぎだ。快感を集中させないように、次は私にしがみついているといい」

 次があるのか、と働かない頭を無理やり動かす。中のものをゆっくり抜かれれば、まだ射精しておらず固くなったままだった。

「大丈夫だ。今日は無理強いさせない」

「ん……」

 アイメリクは触れるだけのキスをすれば、シーツに横たわってわたしを抱き寄せる。まだ速い心音が聞こえて、余裕そうにしながらこのひともドキドキしていたのだと嬉しくなってしまう。

「突然誘ってしまったんだ、ゆっくり休みなさい」

 達したあとの疲労が、次第に眠気を誘う。もう少し話していたいだとか愛していたいだとか、いろんな考えが頭を巡っていく。それが埋め尽くされる頃には、わたしは既に夢の中へと吸い込まれてしまっていた。

 

 

 朝食は日が昇る少し前に用意された。それがイシュガルドの気候によるものなのか、単に議長の朝が早いだけなのかは定かではなかった。あまり贅沢をしない方だとは伺っていたが、心做しか朝食まで少し豪華な気がするのはわたしがいるせいなんだろうか。

「よく眠れたかい」

「まあ……たくさん戦った後みたいに、ぐっすり」

 アイメリクは何事も無かったかのように接していた。宿と食事を提供しただけかのような淡白さもあったが、きっとそれは未だ緊張の抜けないわたしへの気遣いなのかもしれない。

「遠出の予定は無いと言っていたが……いつ何が起こるか分からないからな。身体はお大事に」

「ありがとう。……あと、毎回こんなに豪華じゃなくていいからね」

「日頃の感謝と、ほんの少しの見栄さ」

 自分も朝から用事があったため、早々に髪を整えた。忘れ物はないかとベッドを振り返ったところで、ふと思い出す。

「捜し物かな」

 わたしの様子を見たアイメリクは、君は殆ど持ち物をもたずに来ていたはずだけど、と首を傾げていた。

「……アイメリク」

「ん?」

「寝癖ついてる。整えてあげるから座って」

「これは失礼。お願いしよう」

 うっかり昨日のように膝に乗りそうになったが、なんとか立ったまま彼の髪に手を添える。……添えようとした手で襟元を軽く開けば、跡が残る程度に吸い付く。

「っ、英雄殿」

「最後までその……気持ちよくさせてあげられなかったので、次の予約、というか……」

 気づけば顔と顔が近づいて、キスをされるんじゃないかと期待してしまう。アイメリクは言いつけるように互いの額を合わせると、困ったように笑った。

「……次は君が食事に誘ってくれることを期待しているよ」

 身支度をしているうちに日は昇っていた。ボーレル家の玄関をくぐれば冷気が頬を掠める。彼と合わせた額の温度だけが、場違いに熱を帯びている気がした。

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